2年前の春に両親が、

介護付き老人ホームへ入居した。

３棟の建物のかなり大きなホームだ。

それぞれの棟が通路で繋がっていて、

慣れるまでは迷路（笑）

老人ホームだから、

あちこちに大きなエレベーターも設置されているが、非常階段もそれ以上に沢山ある。

１号棟は、５階建て。

２号棟は確か８階建て。

３号棟は、３階建て。

色んな人が沢山いるわけだけど、

意外と寝たきりの人も多かったりするので

館内の廊下は食事時に食堂へ向かう人を見かけたり、食後にロビーのソファーで談笑する人や碁を打っている人を見かけるぐらいで、

割と静かで誰にも会わなかったりする館内。

ところが、その誰もいない廊下を

スーツ姿で、ブリーフケースを持って歩いている人がいる。

基本、ホームではすれ違う人皆とりあえず挨拶する。

ヘルパーさんだろうが、入居者さんや、その家族でも。

とりあえず

「こんにちは。」

「おはようございます」

「こんばんは」

ところが、その人は挨拶もしない。

スーツにしかもシャツにきちっとネクタイまでしめているし、

とても上品そうな方だ。

ひょろっと痩せて、白髪頭の長い髪に、眼鏡。

おじいちゃんだけど、業者さんか？

入居者さんのご家族かと思った。

実は、入居者さんだった💦

朝早くから、夜も9時過ぎぐらいまで、

スーツ姿で歩いていらっしゃる。

しかも、食堂に来るほかの入居者さんから

「先生」と呼ばれているのだ。

何故？

その理由は、ホームに泊まった翌朝にわかった。

両親の部屋へ食堂へ行くために迎えに行ったら

何処からともなくピアノの音が聞こえる。

CDとかでは無い。

生のピアノの音だ。

しかも。

上手い‼️

とてつもなく上手い‼️

思わず聴き入ってしまった。

何処でピアノを弾いているんだろう？

受付で尋ねたところ、

１階の図書室にグランドピアノが置いてあると言う。

老人ホームにグランドピアノかいっっ😳

驚きつつも、覗いてみると

あのスーツにネクタイのおじいちゃんが、一心不乱にピアノを演奏しているではないか！

ブリーフケースの中には古いボロボロになった楽譜がたくさん入っていたが。

「先生」は当然ながら楽譜なんか見もせずに演奏している。

はぁ〜だから「先生」なんだ。

「ピアノの先生。」

受付のお姉さん曰く、

結構有名なピアニストさんだったらしい。

認知症のため、両親より半年ばかり早く入居されたらしい。

先生がピアノを演奏始めると、

私と母はよく聴きに行っていた。

そのせいか、あまり喋らない先生だが、

母には「こんにちは。」と挨拶をするのだ。

「ボケてても、ピアノは忘れないんだねぇ」と

母はいつも驚いていた。

私も老人ホームへ行くと、ピアノの音色を探してしまう。

一昨年の11月に老人ホームへ泊まりがけで行った時に、

「あれ？先生は？ごはん食べに来てないね」

と、母に尋ねると。

「あぁ‼️先生亡くなったとよ。

夏にね、ちょっと調子が悪くて寝込んだら

あっという間に亡くなりんしゃったと。」

ええっ？

聞いてないよ！

そんなに前に？

と言うと、

へらっとした顔で

「そうよ。言ってなかったかね？」

と淡々としたもの。

ふーん。

そうなんだぁ。。。

先生のピアノ、聴けたのはほんの数回。

詳しいことはわからないけど、

とても良い音だなぁって思ったし。

好きなピアノの音色だった。

そして、人の死にすっかり無頓着な母にもビックリした。

まあ、年寄りだらけで、

死んでいく人もたくさん居ると、

こんなにも人の死に鈍感になるものだろうかと驚いた。

母はすっかり忘れてしまっても、

多分私は忘れないな。

そういえば。

このブログを書いていて思い出した。

うちの実家の近くに住んでいた私のピアノの先生にちょっと似ていたな、と。

ひょろっとした後ろ姿、スーツとネクタイ。

雨上がりの朝、響くピアノの音色。

ボケても、ピアノだけは忘れなかった。

まだ春浅い肌寒い日でも、ピアノを弾く時は必ずエアコンを切っていた。

なんで？って聞いたら

「音が悪くなるから。」って。

カッコイイじゃん👍

それこそ、最後まで

生涯現役だったんだわ。

名前も知らなかった先生のおはなし。

は🌸